歯科医が解説!歯牙移植の治療法と費用・保険診療の適用まで徹底解説

あなたは歯を抜かなければいけなくなり、その後の治療をどうしようか悩まれているのではないでしょうか。歯医者でインプラントやブリッジ、入れ歯の説明を聞いても、何か他の方法がないかと調べているのではないでしょうか。

もしかしたら、歯牙移植ができるかもしれません。
歯牙移植は歯を移植することです。親知らずなどの歯として機能していない歯を失った歯の部分に移植します。人工物ではなく自分の体の一部を移植するため、特に10代で早期に抜歯をしなくてはいけない方に有効な治療法です。また、条件によっては保険診療で歯牙移植を行うことができるのです。

歯牙移植とは:インプラント・入れ歯ではできない「自分の歯を残す」治療

抜歯しなくてはいけない歯や歯がない部分に、自分の他の歯(特に親知らず)を移植する方法です。悪い歯を抜歯した穴に、親知らずを抜歯して、穴に入れて固定します。自分の歯を移植することによって、インプラントのように人工歯根を骨の中に入れなくていいのです。歯は移植後、歯の根の治療をしたり、詰め物やかぶせ物の治療をします。

抜かなくてはいけない歯や親知らずの大きさによってできる場合とできない場合があります。インプラントは大きさや長さが多くあるので色々な部分に、インプラントを入れることができますが、歯牙移植は抜く歯と移植する歯の大きさがある程度合っていなくては治療をすることができません。そのため、あまり多く行われていないのです。

歯牙移植のメリット

歯牙移植は入れ歯やブリッジ、インプラントとは異なり、自分自身の歯を再生させる治療の1つです。そのため多くのメリットがあります。

メリット1

 歯根膜を残すので「噛み心地」が非常に良くなります。歯の根の周りには歯根膜という膜があります。この膜はものを噛んだときに硬いもの、軟らかいものなどを感じとる器官です。歯牙移植ではこの歯根膜が残せるため噛み心地がよくなります。

メリット2

 10代でも治療が受けることができます。インプラントやブリッジは成長が止まってからでないと治療を行うことができません。自分の歯であれば成長によって歯が動くので成長期でも行うことができます。

メリット3

 保険適用可能なのでインプラントに比べて安価に治療を受けられる 歯牙移植は条件によって健康保険内で行うことができます。インプラントも条件によっては健康保険内で行うことができますが、条件は厳しく、通常の場合はほとんどできないと思ってください。そのため、インプラントより費用が少なくできます。

メリット4

 両隣の歯を削る必要がありません。 ブリッジ治療を行う場合は前後の歯を削る必要があります。しかし、歯牙移植は前後の健康な歯を削ることなく、新しい歯を作ることができます。 このように歯牙移植にはインプラントや入れ歯では実現できない多くのメリットがあります。 ではどんな人に向いている治療法なのかを具体的にみてみましょう。

歯牙移植の治療の流れ

歯牙移植の治療の流れと実際の治療の様子をわかりやすく動画にまとめましたので、こちらでご覧ください。具体的にイメージが湧くと思います。

STEP1 割れた歯を抜歯します

残すことのできない割れた歯を抜歯します。

STEP2 親知らずを移植します

歯茎の中に隠れている親知らずを抜歯し、手前の抜いた穴に移植します。

STEP3 糸で固定します

抜いた親知らずは強固に固定してしまうと、歯と骨が癒着し失敗の原因になります。そのため糸で固定します。

STEP4 根の治療をします

一度抜歯した親知らずは歯の先端で神経が切断されています。歯の根の治療をして根の中に細菌が繁殖しないようにします。

STEP5 プラスチックを詰めます

歯の神経を治療した穴にプラスチックを詰めて終了です。

歯牙移植ができる5つの条件

歯牙移植を行うにはいくつかの条件があります。これらの条件を満たさなければ歯牙移植を行うことはできません。

歯牙移植できる歯がある

歯牙移植するには移植できる歯が必要です。多くの場合、親知らずを使うことが多いのですが、過剰歯(かじょうし)や、歯の位置が悪い転移歯(てんいし)などを使うことがあります。

抜く歯と移植する歯の大きさが近い

抜いた歯の位置に移植する歯を入れるために大きさが近い必要があります。例えば大きな親知らずを前歯に移植することは難しいのです。できるだけ形や大きさが近い場所に歯を移植する必要があります。

抜く歯の周りに骨がある

歯を抜いた後、その周りに移植するための歯が植えられる骨が残っている必要があります。例えば歯周病で歯がグラグラで抜歯をしなくてはいけない場合、多くは周りの骨がなくなっています。そのため歯を移植しても歯を固定する場所がなくて移植ができません。虫歯や歯が割れる歯牙破折などで歯を抜かなくてはいけない時に歯牙移植は有効です。

移植する根の形は単純な円錐形である

移植する歯の根の形が円錐形で単純な方が歯牙移植の成功率が高くなります。移植する歯の根が曲がっていたり複雑な場合、移植する歯を抜く時折れてしまうことがあります。また、移植した後に根の治療を行う際、成功率が下がってしまいます。そのため、移植する歯は抜きやすく、根の治療がしやすい単純な円錐形である方がいいのです。

骨の厚みが十分にある

歯牙移植は歯がもともとない部分に親知らずなどを移植することもできます。抜歯して時間が経っている骨に穴を開け、親知らずを移植します。しかし、骨が痩せていたり、幅や深さがない部分には移植する歯を植えることができないため、必要であれば移植する前に骨を作る処置を行ってから歯牙移植を行います。

保険でできる歯牙移植の条件と費用

【保険診療】5千円から1万5千円程度

保険診療3割負担の方で5千円から1万5千円程度になります。レントゲンやCTレントゲン、移植する歯の状態によっても費用は異なります。移植後、歯の根の治療や被せ物、詰め物の費用がかかります。

※保険診療適応の条件

保険診療で歯牙移植を行うためには移植する歯は親知らずか埋伏歯(歯茎の中に潜っている歯)である必要があります。八重歯や内側に倒れている転移歯などは保険診療内では歯牙移植を行うことができなくなります。

【自費診療費用】

5万円から30万円程度です。自費診療の場合、基本的に条件はありません。親知らずでも歯列矯正で抜歯しなくてはいけない歯でも、移植することができます。また、歯牙移植を保険診療で行っていない歯医者もありますので、かかりつけの歯医者で確認してください。

移植する歯は親知らずか埋伏歯

保険診療で歯牙移植を行うためには移植する歯は親知らずか埋伏歯(歯茎の中に潜っている歯)である必要があります。八重歯や内側に倒れている転移歯などは保険診療内では歯牙移植を行うことができなくなります。

抜歯しなくてはいけない歯と移植する歯の抜歯は同日でなくてもいい

以前は抜かなくてはいけない悪い歯を抜歯し、同時に親知らずを抜歯して、移植する必要がありました。しかし、平成26年4月の保険改定により、以前抜歯した部分に新たに骨を削り、歯を移植することが保険診療で認められるようになりました。

費用は5千円から1万5千円程度

保険診療3割負担の方で5千円から1万5千円程度になります。レントゲンやCTレントゲン、親知らずの状態によっても金額は変わります。その後根の治療や被せ物の費用がかかります。

それ以外は自費診療で費用は5万円から30万円程度

保険診療で歯牙移植ができない場合は自費診療となります。歯牙移植、根管治療、部分矯正、被せ物などの費用が全て自費診療となるため場合によってはインプラントと同じくらい費用がかかってしまうこともあります。

歯牙移植の期間

期間は3〜6ヶ月程度

歯牙移植は手術、歯の根の治療、被せ物の治療の期間が必要です。最後の被せ物ができるのは手術をした後、周りの骨が完全に出来上がる3ヶ月から6ヶ月程度経って、移植した歯が安定してからおこないます。

歯牙移植とインプラントとの比較

こうだったらインプラントがいいですよ、こうだったら歯牙移植がいい

  • 腫れや痛みを重視するならインプラント
  • 噛みやすさを重視するなら歯牙移植
  • 条件が少ないのはインプラント

適応範囲が広いのはインプラント

歯牙移植は移植する歯(親知らずなど)の大きさは決まっています。そのため大きさの違う場所には歯牙移植を行うことができません。インプラントは太さや長さの種類があり、歯がない部分に合わせたインプラントを選ぶことができるために、多くの部分で行うことができます。詳しくは「インプラントが残っている歯を守る!治療法・費用・歯医者の選び方」を参考にしてください。

インプラントは:骨の高さや厚みが少なくても、骨を作る処置や短いインプラントを使うことによって広い条件で治療を行うことができます。

歯牙移植は:移植する歯があること、移植する場所に骨があること、移植する歯の根がまっすぐなことなど条件が限られてしまいます。

腫れや痛みが少なくしたい方はインプラント

インプラントを行う時には骨を削るためのドリルとインプラントが規格化されており、骨に穴を開けた部分にぴったりとインプラントが納まるようになっています。歯牙移植は抜かなければいけない歯や移植する歯の大きさが違っているため、削って合わせてを繰り返し、穴に適合させる必要があります。そのためインプラントよりも腫れや痛みが出やすいことがあります。

インプラントは:インプラント治療は規格化されています。長さや深さを規定通り骨に開け、その中にインプラントを入れるので骨を削る量が最低限で済むため、腫れや痛みが少なくてすみます。

歯牙移植は:移植する歯(親知らずに)合わせて骨を削るため、移植する歯の根にぴったりあったドリルがあるわけではありません。インプラントより骨を削る量が多いため、腫れや痛みが出やすくなります。

噛みやすさを重視したい方は歯牙移植

歯根膜とは歯の周りについている膜で、噛んだときに硬い軟らかいなどを感じる器官です。歯牙移植では自分の歯を使うために歯根膜が残り、噛んだときに感覚があります。インプラントは骨と直接つながるため、歯根膜はなく機能的には問題はありませんが、細かな感覚は失われます。

インプラントは:インプラントは骨と直接ついているので噛むという感覚は、歯でなく頬や歯茎、舌で感じ取ります。

歯牙移植は:歯根膜という感覚器官が残るため、噛む感覚が高くなります。

成功率が高いのはインプラント

歯牙移植は年齢や移植する歯の形や状態などによって大きく変わります。5年もたせることを目標にすれば90%以上の確率で成功すると言われています。インプラントは10年予後は90%程度です。それでも歯牙移植で10年、20年経過している歯もありますので、しっかりとしたデータがあまりないのが実情です。

インプラントは:安定した成功率があります。

歯牙移植は:年齢や歯の状態、個人によって成功率にばらつきがあります。

その他の治療法

部分矯正で歯を動かす

歯を抜かなくてはいけない部分の近くに親知らずがある場合は、親知らずを移動させる部分矯正を行うことができます。矯正用インプラントを使って親知らずを移動させます。期間は半年から2年程度かかり、費用は15万円から20万円程度です。歯牙移植に比べ、期間は長くなりますが、歯の神経が残せるため、被せ物などをする必要がありません。

まとめ

歯牙移植は条件が整わなければできない治療です。そのためインプラント治療の方が多く行われているのが実情です。しかし、10代、20代の場合はインプラントを選択するよりもできるだけ歯牙移植を行いたいものです。親知らずも残っていることが多く、成長によってインプラントの位置がずれてくることも考えられるからです。歯をどうしても抜かなくてはいけない場合、一度歯牙移植ができるか、かかりつけの歯医者に相談してみてください。